電解水透析の3つのポイント
- 都内のクリニックで初の導入
- 心疾患などの合併症が低下し、予後が改善
- 透析中に発生する活性酸素が除去され、倦怠感が軽快
水は酸素と水素から出来ていますので、水を電気分解すると酸素と水素が発生します。水素が発生する陰極側の水は電解陰極水と呼ばれます。電解陰極水は還元水とも呼ばれ、この水素を多く含む水は抗酸化作用があります(酸化還元反応)。新鮮な水を持続的に電気分解して、陰極側と陽極側を膜で仕切り、電解陰極水だけを回収すれば、常に新鮮な抗酸化作用のある水が得られます。現在はこの電解陰極水を単に「電解水」と呼んでいます。
この抗酸化力のある電解水を医療に応用できないかということで、注目されたのが、水を大量に使う血液透析でした。透析患者さんは尿毒症のため体がやや酸性であり、電解水が酸化ストレスの軽減に役立つと考えられました。
「電解水」を透析液の作成に使用し、透析を行う方法を「電解水透析」と呼びます 。
2003年に初めて透析患者さんに「電解水透析」を行い、血中の酸化ストレスマーカーが明らかに低下することが報告されました (Huang KC, et al. Kidney Int.
2003;64:704-14)。
血液透析はダイアライザーというろ過器で血液ときれいな水を膜を介して接触させ、ろ過や拡散の原理を利用して血液中の毒素や余分な水を除きます。この時、血液の赤血球や白血球や血小板などの血球成分は膜に接触するため、一定の割合で壊れてしまいます。白血球の一種である好中球は細菌などの異物を食べて活性酸素によって殺菌する働きがあります。好中球がダイアライザーの中で壊れると、活性酸素が血中に放出されます。活性酸素はタンパク質やDNAなどを酸化し、酸化ストレスと呼ばれる生体に有害な作用を及ぼします。このため、透析患者さんの血液検査をしますと、ほとんどの方は炎症マーカーの値が高めです。透析治療では体から尿毒素を除去しますが、その一方で、透析の度に体に有害な活性酸素を血中に放出して、組織を障害しているのです。透析患者さんが一般の人よりも動脈硬化や老化現象が進んでしまう大きな要因です。透析の時に発生する活性酸素を除去するために、今までに様々な方法が試されましたが、有効な方法はありませんでした。
1. 通常透析よりも生命予後が良好
2. 通常透析よりも倦怠感が少ない
3. 高血圧の改善と減薬効果
電解水透析の効果で最も特徴的なのは透析後の倦怠感が改善することです。ある論文によりますと透析後の倦怠感のあった患者さんに対して電解水透析を行ったところ8週間後には倦怠感が有意に減少しました。
その理由として、電解水透析が酸化ストレスを軽減し、自律神経機能のバランスを改善させることが示唆されています。また、別の研究では、電解水透析は通常の透析に比べて死亡及び心脳血管病のリスクが41%減少するという報告もあります。
透析中に発生する活性酸素は人体に障害を与えます。週3回の透析の度に障害が加えられ、それが蓄積することが全身の組織に慢性的な炎症を起こし、心血管病変だけでなく、免疫能の低下も引き起こします。高血圧の改善、栄養状態の改善など、今までの透析システムでは難しかった効果が報告されています。
電解水透析は透析後の倦怠感という自覚症状を改善するだけでなく、患者さんが自覚できない慢性炎症を改善しますので、本質的に病気になりにくい、元気な体質に変えていきます。
「電解水透析システム」は日本独自の最先端の透析システムです。現在の電解水は固体高分子膜を利用して作製し、pHの変動が少ない第3世代の「電解水透析システム」です。水道水から超純水(RO水)の作製、RO水から電解水の作製までを一貫して行います。
近年、「電解水透析システム」の国内での設置施設は徐々に増加しています。
当院は国内33施設目の導入になり、東京都の透析クリニックでは初の導入となります。当院では全症例にオンラインHDFと電解水透析システムを実施しています。透析による酸化ストレス・慢性炎症を最小限に抑えながら、効率良く尿毒素の除去を行っています。
オンラインHDFだけでは得られなかった、合併症の頻度の低下や血液の炎症マーカーが明らかに低下しました。透析前後での疲労感の減少や活動性の向上が見られるようになり、患者さんの満足度も高いです。
救急医療の現場では現在、水素吸入療法が注目されています。
心肺停止状態の人が救急搬送されて心拍が再開されるのは1割以下ですが、例え、心拍が再開しても、酸化ストレスのため全身の臓器の障害が進み、重い後遺症が残ることが多いのです。東京歯科大学病院と慶応大学病院などが行った水素吸入療法の二重盲検試験の結果が公開されています。心拍が再開した患者を水素を投与しなかった群と水素を投与した群に分けると、後遺症がなかった割合は、前者が21%に対して、後者は46%でした。生存率も前者が61%に対して、後者は85%で、明らかに水素吸入療法が有効であることが示されました。これは血中に溶けた水素が活性酸素を除去することが主因と考えられています(Tamura
T, et al. EClinicalMedicine 2023;58:101907) 。
飲料用の電解水は、電解水素水整水器によって利用できます。アルカリ性で胃に優しく、便秘などの胃腸症状を改善する効果の他、運動時のエネルギー消費量を低減し、疲労回復を促進する効果も確認されています。現在は多くのご家庭やスポーツジムなどで利用されています。
民間医療施設などで水素を使った治療法が他の疾患でも効果があると謳った情報も散見されますが、臨床試験などで効果が確認されていないエビデンスレベルの低いものもあるのでご注意ください。