東京ネフロブログ
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欧米に比べて日本の腎移植の少なさについては昔からよく言われていました。私は日本で最も腎移植手術の多い大学に入局したので、腎移植は普通の医療だと思っていましたが、一歩大学を出ると腎移植というのは大変珍しい医療であることがわかりました。立花隆の著書「脳死」で臓器移植の問題提議がなされ、多くの議論の末に臓器移植法が成立し、脳死下の臓器移植が可能となりました。その後も、臓器移植の推進のために、臓器移植法が改正されたり、官民で様々なキャンペーンが行われたりしてきましたが、腎移植率は未だに先進国の中では最低レベルです。日本の腎不全医療は圧倒的に透析に依存しています。しかし、日本の透析の治療成績は先進国でもトップであることも事実なので、一概に透析が悪いという事も出来ません。ただし、患者さんの健康を考えると、24時間休むことなく働く移植腎と48〜72時間毎に短時間だけ行う透析は体への負担に大きな違いがあります。QOL(生活の質)は圧倒的に腎移植の方が上です。私は末期腎不全の患者さんには、腎代替療法の選択肢として、献腎移植>>生体腎移植>透析の順番で勧めます。日本では腎移植の中では生体腎移植が多いのですが、ご家族であるドナーの健康な体から腎臓を1個摘出することになるので、医療者としては諸手を挙げては勧められないという歯痒い気持ちもあります。透析も含めてどの腎代替療法も必ず利点と欠点がありますからケースバイケースなのですが、実際には一番無難な透析が選ばれることが多いのです。
欧米では透析は基本的に一時的、待機的治療という考えです。これは、腎代替療法としては腎移植が前提になっているからです。しかし、日本では透析は慢性的、維持的治療と捉えられています。当院で透析を受けられる外国人の方はほとんど移植後に透析に戻った方か移植待機中の方です。日本で腎移植が少ない理由は単純にドナーが少なく腎移植のチャンスが極端に少ないというのが一番です。患者さんの中には最初から諦めていて、移植希望登録さえしていない方も多いです。さらに、日本の超高齢化社会の現れ、つまり、高齢になってから透析になる患者が多いという現実もあります。腎移植のレシピエントの年齢に明確な基準はありませんが、高齢者には積極的には腎移植は勧められません。それから、日本で腎移植が少ない別の理由として、医療者側の問題もあると思っています。昔は外科と内科の連携がうまく出来ておらず、患者の選択肢が狭められていた可能性がありました。私が入局した頃も外科と内科の静かな対立がありました。今は制度改革が進み、このような患者にとって無意味な争いが無くなっていることを願っています。
腎移植の推進のためには脳死からの献腎移植が増えなければいけません。以前、知り合いの人と脳死の話になって、その人はもし脳死になったら臓器提供してもいいけど、どういう手続きが必要なのかわからないと言っていました。今の時代は臓器提供に対して昔ほど拒否反応を示す人は少ないのではないかと想像しています。個人的な提案ですが、マイナンバーカードや保険証に臓器提供意思表示の義務化を検討するのはどうかと思っています。もちろん、今まで通り移植を拒否する自由も担保しなければいけません。
私が入局してから30年以上経ち、多くの諸先輩先生方が腎移植推進の努力をしてきたにもかかわらず、日本の透析医療偏重は基本的には変わっていません。もし制度的問題や営利目的が原因であれば、患者にとってこんなに悲しい話はないと思います。腎移植がもっと増えて欲しいと切に願います。
院長